近江八景   大江敬香

堅田落雁比良雪
湖上風光此處收

烟罩歸帆矢橋渡
風吹嵐翠粟津洲

夜寒唐崎松間雨
月冷石山堂外秋

三井晩鐘勢多夕
征人容易惹郷愁

この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、
下平声十一尤の韻の
收洲秋愁の字が用いられている。

作者:大江敬香(1857−1916

明治大正の漢詩人、父は徳島藩士 後 浜松県知事(明治十九年以前は現静岡県を浜松県と呼んでいた。
現在の知事は典事と呼ばれていた) の長子として江戸八丁堀に生まれる。
明治五年慶応義塾に入り、卒業後東京大学文学部に入学したが中退新聞雑誌などの刊行した。


近江八景
    大江敬香

かたたのらくがん    ひらの ゆき

堅田の落雁 比良雪
こじょうのふうこう  このところに おさまる
湖上の風光 此の處に收まる

けむりは きはんを こむ     やばせのわたし
烟は歸帆を罩む 矢橋の渡し
かぜは  らんすいを ふく    あわづのしま
風は嵐翠を吹く 粟津の洲
 

よはさむし     からさき  しょうかんの あめ
夜は寒し 唐崎 松間の雨 
つきは   ひややかなり    いしやまどうがいの あき
月は冷やかなり 石山堂外の秋



みいの ばんしょう  せたのゆうべ

三井の晩鐘 勢多の夕
せいじんよういに  きょうしゅうを ひく

征人容易に 郷愁を
惹く


意解
堅田の浮き御堂、その近くに舞い降りる雁の群れ
或いは遠く聳える比良山の暮夕の雪
琵琶湖の上に映じて何とも美しい景色である
暮煙は帆掛け舟をこめて矢橋の渡しに帰ってくる
風は粟津の晴嵐の松並木を吹いている
また、寒い夜に唐崎の松に降る雨の景色も一入風情を増す
秋の石山の月はことのほか美しく、三井寺の晩鐘の響き
瀬田唐崎の夕暮れどきの景色は一層感趣を深くしてくれて
旅人の心はいつしか故郷を思う気持ちを深くさせてくれる。


 「母」    松口月城 
ふるさとの栗もくるみもうれたれば
  おまえを思うと母の文くる
呼びたくも呼ぶことならぬガラス戸に
  息吹きかけて母と書くなり

非行少年泣囹圄   非行の少年 れいごになく
無限悔恨思欲窮   無限のかいこん 思いきわまらんとほっす
噫吾過矣吾過矣   ああ 吾あやまてり 吾あやまてり
終夜不眠獨房中   終夜ねむらず 独房のうち
上頭思母伏枕母   
こうべをあげては 母を思い枕にふしても母
慈顔如佛浮我瞳   
じがんほとけのごとく我がひとみに浮かぶ


かくまでもなげきたまいぬ吾ゆえに
  日毎ふえゆく母のしらがみ

海嶽恩愛今始識   かいがくの恩愛 今はじめてしる
一輪寒月照獄窓   
一輪の寒月 ごくそうを照らす


作者  松口月城
明治二十年〜昭和五十六年 福岡生まれの大詩人 九十五歳で没


意解
非行少年が投獄され、自分の犯した罪への反省と母の慈愛を思い更生する姿を詠った歌です。
ここに掲げた三首の和歌は、三人の非行少年の作になるものである。

ふるさとの、、、は宮城刑務所収容者
よびたくも、、、は福岡刑務所
かくまでも、、、は山口新光学園収容者
真に母の愛情にうたれ心から後悔し、自らの犯した罪を償って一日も早く真人間生まれ変わりたい、
という切なる願いを三十一文字に凝集させてものである。

心ならずも過ちを犯してしまい、ゆがめられ、荒んだ少年の心を、春のやわらかい風が
冬の氷を溶かすように、やわらげてくれるのは母の慈愛の心を置いてほかに無い。
獄窓の窓に降り注ぐ月の光は冷たく鋭いが、母の慈愛の光のように輝いて見える。
広大無辺の誠の母の愛の前に深く頭を垂れて報恩、感謝の念にたえない。




静夜思  李白

牀前月光を看る
疑うたごうらくは是れ地上の霜かと  
頭こうべを挙げては山月を望み
頭を低たれては故郷を思う




山中幽人と対酌す   李白

両人対酌山花開く
一杯一杯また一杯
我酔うて眠らんと欲す君しばらく去れ
明朝意有らば琴を抱いて來たれ



春望       杜甫

国破山河在    国破やぶれて山河在あり
城春草木深    城春にして草木深し
感時花濺涙    時に感じては花にも涙を濺ぎ
恨別鳥驚心    別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火連三月    烽火三月に連なり
家書抵万金    家書万金に抵たる
白頭掻更短    白頭掻けば更に短く
渾欲不勝簪    渾べて簪に勝えざらんと欲す

「意解」
国都長安の町は、賊軍のためにすっかり破壊されたが山や川は昔のままである。
城内にも春がやってきて 草や木が深々と生い茂った。
この戦乱のなげかわしい姿を思うと花を見ても涙が落ち、
家族との別れを悲しんでは 鳥の声にも心が痛む。
戦乱が久しく続いているため 家族からの手紙はなかなか来ないので。
万金にも値するほど貴重に思われる。
度重なる心痛のため 白髪は掻けば髪の毛はさらに短くなり
今ではまったく冠を止めるピンもさせない程だ。


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